前回は、社内のキーパーソンとともに進めた方針づくりや、会社の歴史に息づく「挑戦のDNA」について伺いました。最終回となる今回は、自動化と働く環境の整備、サステナビリティが人材確保に与える影響、KPIの正しい使い方、そして2030年に向けた展望まで、未来を見据えたお話をお届けします。
自動化と社員の負担軽減
モデレーター長く成長している企業を見ると、一つの柱を軸にしながら、次の柱を作っていく、というケースが多いように思います。ダンボール製造が大きな柱としてある中で、それを効率的に回していくために設備投資や自動化を進め、そこで生まれた人的リソースを新規事業に振り向けていく、という考え方は経営者としてよくあることだと思います。工場を拝見した際、ラインの自動化がかなり進んでいる印象を受けましたが、そうした考え方に加えて、サステナビリティの観点からみると、社員の負担軽減という目的もあるのでしょうか。
藤その面が大きいです。画像検査装置などさまざまな検査装置、ダンボールを作る本体の機械の前後に、自動でシートを供給する機械や、できた製品をパレットに自動で積み上げる機械などを導入しています。自動化を進めることで、オペレーターの負担軽減や、安心して運転できる環境づくりを意識しています。今後、働く人を確保していくのは難しくなると思うので、負担の少ない、働きやすい環境への投資という位置づけで進めています。

モデレーター実際に導入して、社員の方から「負担が減った」という声はありましたか。
藤こうした体制になってから長いので、昔の半自動の機械の時代から置き換わってきた社員はそう感じているかもしれませんが、今では少し当たり前のようになっているかもしれません。

働く環境の整備
モデレーター社員の観点で言うと、サステナビリティ方針の中にも、健康経営や勤務間インターバル、完全週休二日制、女性活躍推進としてのクリエイター育成、障害者施設への業務委託などが盛り込まれています。社員が働く環境の整備は、採用面も含めて試行錯誤しながら進めてこられたと思いますが、どのようなお考えで進めてきましたか。
藤基本的に、生産現場については働く環境の整備を重視してきました。昨今はワークライフバランス重視の方が多い為、土曜日の出勤をほぼなくしたり、残業を極力抑える事にも設備投資は効果を発揮しています。また自動化設備を導入する事で力仕事を減らし、男性だけでなく女性にも扱える機械ラインにしたりすることで人手不足時代に対応しています。また11時間の勤務間インターバル制度を設けており、これは健康経営の申請項目の一つですが、制度的に長時間労働にならないような取り組みもしています。生産現場については残業がほとんどない状態を実現できており、これが採用にもつながっていけばいいと思っています。
モデレーター人材育成計画の部分も含めて、こうした取り組みはまさに働きやすさにつながっていくと思います。江口さんから見て、地域の企業が人材を引きつける上で、サステナビリティはどのように響いてくるとお考えですか。数値目標や認定の取得が、金融機関や取引先からの評価にどうつながるかも含めて教えてください。
サステナビリティが採用・人材確保に与える影響
江口様これから社会人になる方も、すでに働いている方も含めて、働きやすさや環境面、いわゆるサステナビリティに関する意識は高くなっています。ボストン コンサルティング グループのアンケートによると、4人に1人程度が、気候変動問題への取り組みが職場選びの基準になりうると回答しているデータもあります。実際にどこまで意識しているかは人によりますが、重視している人は確実にいると思います。一方、私どもでは毎年、新入社員研修を行っており、その際にアンケートを取ると、就職活動で何が参考になったかという問いに対して、「福利厚生、ワーク・ライフ・バランスの実態」が最も参考になったと回答しています。さらに、働く環境や、社員紹介インタビュー、人材育成プランなど、自分がその会社でどのようなキャリアを歩んでいけるかを重視している方が多いという結果となりました。また、最近の高校生などではSDGsに関する授業を受講している生徒も多く、高校生やその下の世代にとって、サステナビリティはすでに当たり前のものになっているということです。そういう時代だという心構えで受け入れをしていかないと、人手不足の中で人材確保が難しくなってしまいますし、逆にすでに取り組んでいるのであれば、それをきちんと伝えていくべきだと思います。併せて、働く環境や研修プランだけでなく、「働く意味」がモチベーションにおいて非常に重要だと思います。給与が上がる、地位が上がるということだけではなく、働く意味がモチベーションにつながる会社を目指していけると良いと思います。今回の話で言えば、新潟県内で作られた食材を、お客様に安全に届けるサポートをしている、もし耐久性や衛生面で問題があれば、人々の健康にも影響が及びかねない、それだけ責任の大きい業界に携わっている、ということを伝えていくことで、モチベーションを引き上げていくことができるのではないでしょうか。次世代の経営者が担うべき役割の一つは、こうした働く意義を社員の方々にうまく伝えていくことだと思います。
藤特に製造の現場は、どうしても日々似たような作業を繰り返す仕事です。よい製品を作る為にはmm単位の調整だったりの技術的な部分もある為、そういった中に面白さを見出す社員ももちろんいますが、「ダンボールだけ作っている」という考えでいると、どうしてもモチベーションが下がってしまう可能性もあります。「何のためにやっているのか」を改めて伝えることが重要だと思います。
江口様今回まとめた策定方針は、そのための資料の一つとしても活用いただけるのではないかと思います。
モデレーター社員の方々にとってはもちろん、こうしてお話を直接聞かせていただいている金融機関の担当者としても、「本当にいい会社だ、応援したい」という気持ちになるのではないでしょうか。また、認定の取得は、サプライチェーンの中でも効いてくる部分だと思います。
江口様実際、取引先からサステナビリティの取組状況に関するアンケートやヒアリングを受ける機会が、今後さらに増えていくと考えられます。そうしたアンケートに答える際のエビデンスとして、「こういう活動をしています」「こういう認証を取得しました」という実績はますます求められてきます。ただ、個人的には、認証を取得したこと自体よりも重要なのは、それに対してどのような活動を行い、KPIをどう定め、どこまで進んできたか、どんな工夫をしてきたか、というプロセスを開示し続けることだと思います。人は結果よりもプロセスに共感し、共鳴するものです。結果だけを追いかけると、数字が未達の場合に「大丈夫か」という話になりがちですが、そこに至る過程にこそ共感が生まれます。そこをうまく情報発信していくことが重要で、それは社員の方々に対しても同じだと思います。
藤これは非常に大事な視点だと思いました。結果だけを追われると、やらされている感覚になってしまいます。途中経過をきちんと共有しながら進めていくことで、みんなで作っていく雰囲気を作れればと思います。今回のKPIも、それ以外の部分も、そうした形で進めていきたいと思います。
江口様KPIは、大きなビジョンに対して自分がどう貢献するかという一歩としては非常に良いものですが、運用を間違えると「KPIのために働く」という話になりかねません。たとえ達成できなくても、そこに向けて何をしたかが重要だ、というスタンスも大切です。

KEY MESSAGE「人は結果よりもプロセスに共感し、共鳴するものです。」
2030年に向けた展望
モデレーター最後に、2030年にどのような会社になっていたいか、お二人からお聞かせください。まず江口さんから、藤屋段ボールさんの2030年について、どのような姿になっていてほしいか教えてください。
江口様今回作成していただいた価値創造ビジョンには、「ありたい姿」があり、それに向けた課題、そしてKPIがあります。そのKPIの達成に向けて取り組んでいくと、藤屋段ボールさんの「ヒト・モノ・カネ・情報」という経営資源がさらに良くなっていき、それを再投資することで企業価値が向上し、さらに良くなっていく、という循環のプロセスが生まれます。この循環を、ぜひ続けていっていただければと思います。とはいえ、進めていく中でいろいろな違和感や変化も出てくると思います。そうした時は、私たち第四北越フィナンシャルグループだけでなく、次世代の経営者のお仲間と話し合いながらKPIを見直していく作業がとても重要です。今回はひとまず2030年を目標にしていますので、2030年になった時に、2026年と比べてこの4年間どうだったかを、ぜひまたこのメンバーで答え合わせをしたいと思っています。全く進んでいない、ということにならないように。ビジョン自体が変わった、という場合もあるかもしれません。この4年間で会社も私生活も変わっていく中で、目指す方向は大きく変わらなくても、内容を見直す必要があるでしょう。2030年にもう一度作り直し、また同じように回していく、ということも重要だと思います。それも含めて循環させていく活動そのものが、サステナビリティ、持続可能性という活動につながっていくのだと思います。
藤KPIを作って終わり、KPIを1年後に測って終わりにするのではなく、途中のプロセスも共有しながらやっていきたいと思います。
江口様これまでは、経営資源を投入し、KPIを定め、達成した・しなかった、で終了、翌年また新しいKPIを考える、という一方通行になりがちなケースも多かったと思います。そうではなく、一度作ったものを見直し、また回していく。このサイクルをずっと回転させていく形で、2030年を迎えられればと思っています。
藤KPIの正しい使い方が、今日のお話でよく分かりました。単に結果を確かめるだけのものではなく目標を定める、そこへの取り組みのプロセスも共有していく事が大事だと思いました。
江口様そこを間違えると、苦しいだけの職場になってしまいます。
モデレーター2030年、専務様は40代になられているところですね。どんな会社になっていたいですか。
藤私も江口さんと同じ考えで、今回の取り組みで定めたマテリアリティのKPIにしっかり取り組むことで、会社の質を向上させていきたいと思っています。ロスの低減や再生産回数の低減、粗利率の高い商品の販売拡大など、KPIに取り組むこと自体が、内部的な会社の質の向上につながっていきます。健康経営も引き続きしっかり取り組むことで、社員の働く質も良くなっていくと思います。KPIはクリアすればまた新たなKPIが出てくるものだと思うので、それをしっかり循環させながら、会社を持続的に成長させていきたいと考えています。社員一人ひとりがKPIを意識して行動できる状態になっているといいと思います。KPIを会社が定めるだけでなく、社員もモチベーション高くKPIに取り組めるような発信の仕方も工夫しながら、2030年、4年後にはそれが定着し、さらにその先の2040年、その先につなげていける状態にしていきたいと考えています。

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紙・パルプ業界全体のサステナビリティ
藤一つ伺ってもいいですか。紙・パルプ業界のサステナビリティに関する取り組みは、客観的に見てどう思われますか。
江口様詳しくはないのですが、かなり進んでいるのではないかと思います。原材料が森林からつながっているという特性上、国内でも回せる仕組みが比較的整っているように感じます。つまり、国内で循環を回す取り組みが可視化しやすい業界なのではないかと思います。製紙業界は組合単位でもサステナビリティに関する報告書をまとめたり、マテリアリティを特定したりしていて、業界としてここまでまとまっているところは他にあまりないのではないかと思います。
藤意外です。当社では、紙・パルプ業界の取り組みについて、最先端というイメージはあまり持っておらず、他の業界の方がもっと先進的にまとめられているのではと思っていました。ただ、段ボールをはじめ紙は、かなり昔からリサイクルの仕組みが構築されていて、それが当たり前になりすぎているために、あまり評価されていない部分があるのかもしれません。
江口様大手の製紙メーカーが中心となってサステナビリティ活動を推進することで、業界全体として、サステナビリティに対する意識や行動が進んだのかもしれません。
藤大手は4社ほどに絞られていて、各社上場していることもあり、統合報告書の作成にも積極的に取り組まざるを得ない状況にあるのだと思います。
江口様比較対象にもよりますが、全体としては進んでいる業界なのではないかと思います。業界としてマテリアリティまで特定してまとめられているケースは、そう多くはないと思います。
藤客観的にそう見えるのであれば、進んでいるのかもしれませんね。
江口様そういった業界の中で、様々な情報を入手しながら、サステナビリティに関する取り組みを今後も進めていってほしいと思っています。

取材場所紹介
わたご酒店さんの新店舗somaで取材をさせていただきました。

somaとは、漢字で、杣(そま)と書きます。杣(そま)は、神社仏閣などの建材を、100年以上前から育てる人目に触れない山のことです。
人知れず、未来を見据えて静かに受け継がれてきた里山。
ここ新潟島には、山も森も、田んぼも畑もありませんが、日本一の大河「信濃川」で里山とつながっています。
さらに日本で最長の信濃川を名前の由来にもつ信濃町は、日本で最も文化が集積される場所なのではないかと考えています。
私たちが最も力を入れるのが、日本酒。日本酒は、まさに日本の自然と里山の営みによって生まれる産物です。
私たちは、このまちでそんな里山で繰り広げられる営みを、皆様にお伝えできれば幸いです。
また今後は里山へ誘う企画も考案中です!
